箱根山における火山活動の暫定解析結果

 箱根の火山・地震活動を常時、詳細に観測している神奈川県温泉地学研究所は、5月13日現在の箱根山における火山活動の暫定解析結果を発表しました。
 
それによると、

1 温泉地学研究所などが詳しく観測を始めて以降の地震活動では、2001年以降最も活発である。

2 地下の深いところから浅いところへ震源が移動していく→地下の構造体(岩盤など)の動き(破壊、ずれ、亀裂の拡大など)が起きて、地下からの移動体(蒸気、熱水など)の通り道ができたことを示していると考えられる。

3 GPSの解析によると、箱根山全体が膨張するような地面の変化をしめしている
  →箱根山全体に影響を及ぼすような大きな地下の変化(地下10km付近にあるマグマ溜まりの膨張など)が、起きている。

] 地下のマグマの圧力の拡大を示す山体の変化ついては、気象庁の発表では、傾斜計に変化がみられるというだけで、全体の評価がされていなかった。温泉地学研究所の発表では、箱根山全体に影響を与えるような変化があることが初めて発表されたと思います。

 私には、この変化の大きさを評価することはできませんが、マグマは、上昇をしていないものの、現在の変動が地下のマグマの変位によって起きていることを頭に入れて考えることが必要だと分かりました。
 箱根山では、3000年前の冠ヶ岳溶岩ドームの形成以来マグマ噴火が起きていません。それは、箱根山の地下のマグマは、さらに深部からの供給を断たれているからであるという説もあります。以降は、大涌谷周辺の水蒸気爆発や噴気の噴出が続いています。

 箱根山は、「静かな火山」とされ、噴気地帯への立ち入りも行われてきました。今後、マグマの動き次第では、「騒がしい火山」になるかもしれません。まして、人間の居住地域に近く、日本有数の観光地、首都圏からも近いとなれば、影響は大きくなります。
 国や地方の防災機関は、温泉地学研究所や気象庁の観測結果をしっかりと読み解いて、不安をあおらずに起こりそうなこと、その発生する度合いについて、しっかり伝えてほしい。
 マスコミが解説の最後に「十分注意する必要がある」とか「注意深く見守っていく必要がある」といって済ませてしまうのでは、「何となく怖い」と思わせてしまうだけだと思います。

箱根山における火山活動 【暫定解析結果 5月13日現在】 神奈川県温泉地学研究所
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/modules/mysection1/item.php?itemid=46

1.地震活動
 地震の積算数の変化から、最近発生した比較的規模の大きい群発地震活動は大きく2種類に分けられます。一つは2008年や2009年のように、急激に地震が増えて比較的短期間で終息する場合、もう一つは2001年や2006年、2013年のように緩やかに地震数が増え、やや長い期間活動が続く場合です。 今回の活動の立ち上がり方は後者に近いようですが、地震数の増え方は2001年や2013年よりもかなり速いことがわかります。なお、2011年は東北地方太平洋沖地震(M9.0)による誘発地震で、火山性の群発地震活動ではありません。

[ Double Difference法と呼ばれる手法を用いて震源位置を高精度で推定したところ、活動の初期には大涌谷付近のごく浅い場所に震源が集中していたことがわかりました。さらに、大涌谷直下の深さ0〜2キロ付近を震源とし、5月4日から5日にかけて発生した非常に活発な地震活動の際には、深いところから浅いところへ震源が移動していく様子が確認できました。
 このような活動によって岩盤中に亀裂が入り、深部からガスなどの移動が容易になったことが、蒸気井での異常な噴気の一因になった可能性もあります。 5月8日ごろからは地震活動の中心が神山から駒ヶ岳の下、深さ0〜2キロ付近に移動しました。さらに5月10日ごろからは深さ2〜4km付近での活動が多くなっています。

2.地殻変動
 箱根周辺にある国土地理院GNSS(GPSなど)データを用いて、スタッキング解析を行いました。この解析を行うことで、単基線のデータに比べて微小な基線長の変化もとらえることができます。解析結果を見ると、地震活動が活発化し始めた4月下旬ごろから、急激に基線長が伸びる変化が現れているように見えます。過去の群発地震の際にもこのような変化は観測されており、地震活動の活発化に先行して変化が出る可能性も指摘されていました。今回も同様の傾向が見えますが、詳細については今後検討していきます。

 地面の傾きを測る傾斜計でも、今回の活動に関連するとみられる変化が観測されています。傾斜の変化を2001年、2013年と比較してみます。地震活動が活発になってから半月程度の間の変動量は、2001年、2013年よりも明らかに大きく、変化速度が速いことがわかります。
 このような傾斜変動を起こす圧力源は、大涌谷駒ヶ岳付近の比較的浅い場所にあると考えられます。一方、GPSの解析結果は、箱根山全体が膨張するような地面の変化をしめしており、より深い場所にも圧力源があることが示唆されます(図のベクトルは、国土地理院山梨県小渕沢を固定点とし、5/4〜5/8の平均値と3/26〜3/30の平均値との差分)。 具体的な圧力源のモデルについては、現在解析中です。